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北関東・芸術の街の映画館

ラジカル鈴木の味わい映画館探訪記

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 続いてJR高崎線を北上、母親の故郷・群馬県へ。ここ数回、自分のルーツを辿ってます。幼いときからよく話を聞いた人口約37万の群馬県最大の都市、高崎。観音様、だるま、そして市民が支える群馬交響楽団今井正監督『ここに泉あり』(1955)に楽団の成り立ちがリアルに描かれる。今年で29年目の「高崎音楽祭」はクラシック、高崎出身の氷室京介布袋寅泰らのロック、DJ小林径らのジャズ、と幅広いジャンルでさまざまな音楽であふれる。近年はパスタの街でもあるらしく、高崎を代表するパスタ店が究極のオリジナルパスタを出品し、味を競う「キングオブパスタ」というイベントも盛り上がっている。

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大きなだるまが駅でお出迎え

 映画界で確固たる信頼を誇る高崎映画祭は今春32年を迎えた。地元約100社がスポンサード、若手監督や無名の役者を正当に評価し多数輩出。向かうのは映画祭と密接な関係がある映画館。JR高崎駅西口から徒歩6分という好立地、NPO法人たかさきコミュニティシネマが運営するミニシアター「シネマテークたかさき」。2004年に市民出資型映画館としてオープン。シネマテークとはフランス語で「映画の図書館」。2つのスクリーンで、とっておきの1冊を選ぶように世界から選りすぐった作品を上映。舞台挨拶やトークも頻繁に行う。

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街のシンボル・群馬音楽センターは1961年竣工

今月の名画座「シネマテークたかさき」

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入口。建物前はレンタルサイクルのポートになっている

 消滅してしまった映画館の復活には、深谷シネマの館長・竹石さんのような存在がいた。高崎映画祭を立ち上げた茂木正男さんは、NTT東日本に勤めながらカリスマ的バイタリティーで、1980年、自主上映グループからスタート。1987年、森崎東監督と倍賞美津子をゲストに招き、第一回の高崎映画祭を市内の6会場で開催。群馬産の映画、若手が撮った作品を中心に紹介。NPO運営の先駆・深谷シネマを参考に2000年頃から単館系専門の常設館を創ろうと画策。映画祭18年目の2004年、NPO法人たかさきコミュニティシネマを設立。銀行だった3階のビルに、市より家賃の一部に関わる助成金を得て、市民からも寄付金を集め完成。茂木さんは二足のわらじのまま、無給の総支配人に。しかし彼を病魔が襲い、2008年逝去。支配人の志尾睦子さんは2014年NPO代表になり、副支配人だった小林栄子さんが支配人に。

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支配人・小林栄子さんに訊く

 小林さんは1978年高崎市生まれ、東京の大学を卒業後、第15回高崎映画祭にボランティアで関わり2017年、映画館設立にも参加した。「『新しい映画館のスタッフにならないか』と声をかけられ即OKしました。でも元々映画界にいたわけではないので、右も左もわからなくて、最初の1年はあっという間に過ぎました。実績がなかったので作品を貸してもらえなかったり、いろいろありましたが、映画祭のときから市の皆さんは温かく、少しずつ、最初は屋号も読めない方もいましたけれど、ここに映画館があるということを知っていただきました。2011年の東日本の震災で、危機もありましたが……。でも、徐々にお客さんが戻ってきて、当初年間90本を公開していたのが、デジタルを導入し130~140本に増え、今は年間170本ほどを公開しています」。

 小林さんは上映作品の選定もされている。「この群馬で、どのような作品を選んでお届けするのか。観ていただきたい作品ばかりで、いつも悩んでいますが、新作を旬なうちにお届けしたいです。まず観ないと選べませんから時間がかかりますが、たくさんの作品に触れられるのは嬉しいです。欲を言えばもっと、じっくり一つ一つ作品に向き合いたいですね」。

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ロビーには上映作品の情報とたくさんのチラシ

 個人的には、エネルギー溢れる韓国映画がお好きだという。「ナ・ホンジン監督の『チェイサー』(2008)、最近の『タクシー運転手~ 約束は海を越えて』(2017)など。役者さんたちは昔の三船敏郎みたいに、皆顔が凄いですよね(笑)。9月公開の韓国の民主化の映画『1987、ある闘いの真実』(2017)は、感動に震えました。これだけたくさん観ていても、まだまだ、ここまで感動できるんだと。注目したい人は『赤色彗星倶楽部』(2017)の、高崎出身の武井佑吏監督です。シネマテークのお客さんで、今映像制作会社の社員なんですが、どんどん活躍してほしいなと。8月11日から当館で公開します」。

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大ヒットにより2スクリーンに

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応接室にある、びっしりゲストのサインが書かれた襖

 2007年、初期費用を完済すると共に、2階に1スクリーン設け2スクリーンになったのは、動員記録を持つ『かもめ食堂』(2005)のおかげだという。上映会ごとに長蛇の列で、追加上映も満席。「スクリーンを増やすには8,000万円かかると言われて諦めかけていたんですが、1スクリーン分の上映機材は、2007年の新潟県中越沖地震で閉館してしまった長岡の映画館から譲り受けました」。

 開館10周年の2014年には『かもめ食堂』のリバイバル上映を行い、出演の片桐はいりがキネカ大森でも時々やっているように“一日もぎり嬢”として来館した。

 高崎市内のロケ誘致を行う高崎フィルム・コミッションは、高崎市より業務移管され、現在NPO法人たかさきコミュニティシネマの事業となっている。「依頼は一日に1、2本はありますね。去年は年間で70本撮影しました。8月18日には、新たな目標だった高崎発の映画、高崎で撮影された作品『高崎グラフィティ。』を上映します。NPOで企画から関わり、映画制作の入口から、出口の上映まですべてに携わった作品です」。

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カリスマ・茂木正男さんの精神

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上映室外壁にも直にゲストのサインがびっしり

 伝説になっている茂木さんのことをさらに詳しく聞いてみた。「映画祭では、常に入口にいましたね(笑)。若いときはそれほど映画を観ていたわけではないらしいんですが、ある作品との出会いで人生が変わってからハマったそうです。重鎮であろうと若いスタッフであろうと、誰であろうと同じように接していました。そして、男性と女性の両方の感性を持っていました。勤務先の仕事が終わってから顔を出すんですが、ここで宴会を始めてしまったり、またはグーグー寝てしまったり。そんな姿しか見ていませんでしたけど、シンポジウムなどで映画関係者が集まると茂木人気がすごいんです。評論家でも研究者でもなく、ただ映画が好きな人だったから寄付も集まって、監督や役者さんも茂木の企画ならば、と協力してくださる方が多くて。新作が出来たらまず意見を聞きたい、とか、某映画監督は今でもお墓参りにいらっしゃいます。彼の肝は『映画を作る、配給する、それだけじゃ映画は完成しない。映画は上映してお客様に観てもらって、初めて完成する』でした」。

熱かった映画祭の思い出

 映画祭に魅了され、毎年通った高校生の頃。「誰も知らない作品に、多くの人が集まっていて印象深かったです。大林宣彦監督の『ふたり』(1991)を観てそのまま会場にいたら授賞式があって、ヒロイン役の女優さん、監督がいらっしゃって『高崎で賞を受けることが嬉しい』とおっしゃって。『何にもないと思っていた高崎に、こんなすごい賞があるんだ!』と衝撃を受けました。手伝いたくて事務局に手紙を送ったのですが返事はなしのつぶて。大学を卒業してからまた応募してみたら今度は「何処へ何時に集まってください」と連絡が来て。聞いたらボランティアはどうしても時間が遅くなるので、高校生は採らないそうです。そうならそうと言ってよ、って(笑)」

 映画祭は毎春行われる。「春休みということもあって、学生さんが多くて活気がありました。2000年・第15回の思い出ですが、会場の700席ある高崎文化会舘が満席でした。それが以降は、お客さんはなぜか減ってしまって。インターネットの普及とか、シネコンの進出などいろいろ考えられるのですが……かつての活気を取り戻したいですね」。

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街が支える芸術と文化

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『女と男の観覧車』(2017)ケイト・ウィンスレット ジャスティン・ティンバーレイク 監督;ウディ・アレン 8月4日より上映

 『ここに泉あり』製作時には市民に500円のカンパ集金袋が回ったという。当時の500円はけっこうな額だったはず。高崎には新しいアイデアを持っている人を皆でサポートする土壌があり、市民が発起してイベントを行うケースも数多くある。

 「茂木は街の復興に対して、そこまで意識はなかったと思うんですが、シネマテークがあるから近くにカフェを作った人や、一度離れた高崎に戻って本屋を始められた人もいて、結果的にそうなっているとは思いますね。いま東口にシネコンがありますが、茂木はかつて東宝、東映、松竹の映画館があった西口にこだわっていました。車でなく歩いて来られる町の映画館。日常に映画があって、気軽に観ていただけるように、と。変化するところは変化し、でも始めたときのスピリットはキープしていけたらと思います。不特定多数の人々が集まる、映画館での興奮を体験しに来てください」。

 取材後のランチは、小林さんに教えていただいた、もうすぐ創業100年の栄寿亭で名物上州もち豚のカツ丼、なんと430円! に舌鼓。次回は高崎編、第2弾に続きます!!

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映画館情報

シネマテークたかさき
〒370-0831 群馬県高崎市あら町202番地
TEL:027-325-1744
席数:1階58、2階64
http://takasaki-cc.jp/
Twitter:@ctq_takasaki

ラジカル鈴木 プロフィール

イラストレーター。映画好きが高じて、絵つきのコラム執筆を複数媒体で続けている。

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