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白人女性を暴行したのは黒人青年なのか…人種差別が生む悲劇を描く名作

映画『アラバマ物語』より
映画『アラバマ物語』より - Silver Screen Collection / Getty Images

 人種差別に抗議するムーブメント、ブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)は世界中に広がっているが、いまだに警官による暴力的な行為の報道が週単位で更新され続けている。この問題の根深さは58年前の映画『アラバマ物語』(1962年)にも描かれており、この作品には黒人差別だけでなく、人の見た目や振る舞いだけで、何も罪を犯していない善人を集団で迫害しておきながら、集団の闇に紛れ何事もなかったかのような日常に戻っていく市井の人々の恐ろしさも描いている。

 物語の舞台となっているのは1930年代のアメリカ南部。この時代、多くのアフリカ系アメリカ人は職や自由を求め南部から北部へ移動し、芸術活動もさかんだった時期だ。しかし1929年に起きた大恐慌によりアメリカの労働者の5人に一人が失業。移民や黒人への風当たりが一層増していた。「アラバマ物語」の基となった「トゥ・キル・ア・モッキンバード / To Kill a Mockingbird」は、原作者ハーパー・リーがこの時代の自分の体験を基に1960年に発表した自伝的小説だ。この小説はピューリッツァー賞を受賞し、大ベストセラーとなった。

 少女の頃のことを回想する形で物語は展開する。自分の父親で弁護士のアティカスが弁護する、白人女性への暴行容疑で逮捕された青年を通して大人の持つ偏見や社会の醜さに気が付いていくという構成だが、少女のニュートラルだったはずの心も知らないうちに偏見という色めがねをのぞきかけていたことも丁寧に描かれる。

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 アメリカ南部の田舎に暮らす普通の人々が当たり前のように偏見をあらわにし、なんでもない普通の人たちを次第に追い詰めていくという、救いようのない展開の中で希望の星となるのが、少女の父、アティカス弁護士だ。町の人からも信頼が厚く弱い立場の人に救いの手を差し伸べる人格者だ。しかし、暴行事件を起こしたとされる黒人青年の弁護をすることで、周りからいわれのない中傷を受け孤立していく。そんな状況においてもアティカス弁護士は親身になって黒人青年の弁護人として彼の家族とも温かく接し、白人だらけの陪審員にも偏見を持たず、真実のみを見つめて判断するよう熱心に訴えかける。

アティカス弁護士のキャラクターは当時、大ブームなったほどアメリカでは好感度が高く、いまだにアメリカの真のヒーローランキングではベスト10に入るほど、不朽のヒーロー像となった。アティカス弁護士を演じたのは名優グレゴリー・ペックで、この役でアカデミー賞主演男優賞を受賞している。

製作年 1962年(129分)モノクロ
製作国 アメリカ
監督 ロバート・マリガン
出演 グレゴリー・ペック、メアリー・バダム

映画『アラバマ物語』は金曜レイトショーで9月18日23:00~無料配信

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