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『羊の木』吉田大八監督の文句なしに面白い韓国映画とは?

釜山で取材に応じた吉田大八監督
釜山で取材に応じた吉田大八監督

 第22回釜山国際映画祭が10月12日から21日まで開催され、「アジア映画の窓」部門で最新作『羊の木』がワールド・プレミア上映された吉田大八監督が現地でインタビューに応じ、映画に対する考え方などについて語った。

 本作は、漫画家の山上たつひこが原作を担当し、同じく漫画家のいがらしみきおが作画した同名コミックを『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』の吉田大八監督が映画化。とある寂れた港町で「国家的極秘プロジェクト」として刑務所から出所したばかりの元受刑者の男女6人を受け入れたことで起こる、町の住人たちとの運命の交錯を描く。主人公の市役所職員に錦戸亮、その同級生に木村文乃、6人の元殺人犯役に北村一輝優香市川実日子水澤紳吾田中泯松田龍平と実力派キャストが集結。

 釜山国際映画祭への参加は初めてだという監督。海外の観客や記者からの反応については、日本でまだ上映されていないため比較することは難しいとしながらも、「実は、映画を作っている時は、直感に従って撮っていることが多く、完成した映画を観た観客からの感想を聞いたり、記者と会話をしていくうちに、直感だった部分を言語化していく」そうで、ワールド・プレミア上映も制作時の感覚を自分の中に言葉として定着させるための貴重な機会であることを明かした。

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 韓国映画については、「2000年代前半から、パク・チャヌクやポン・ジュノ、イ・チャンドンらが監督した映画がたくさん日本で公開されるようになった。その頃はまだ僕は映画を撮ってなかったのですが、何を観ても新鮮で面白いので、僕らも同じ顔なんだから頑張ろう、と勇気づけられた(笑)」そうだ。最近ではホン・サンスが好きだそうで、「どれも同じ話なのに、どうしてこんなに面白いんだろうって」とのこと。影響を受けたのか聞くと、「ホン・サンスに? 受けてない!」と断言。「あんな撮り方であれだけ面白いっていうのは、天才だから。真似したら大怪我します(笑)。文句なく面白い映画っていうのは、ああいう映画のことだと思います」と手放しに称賛した。

 『羊の木』映画化に着手したきっかけは、原作の設定に興味を持ったからだという。「国家的プロジェクトと、寂れた地方都市のコントラストや、不気味で小さな出来事の積み重なりによって、段々一つの世界観が出来上がっていくという構造が面白かった」とし、今まで挑戦したことがない内容でもあったからだという。さらに「強い主人公だけが物語の中心で、あとはそれ以外、みたいな映画はあまり好きじゃないんです。群像劇にならずとも、一人一人がしっかりと個性を持っている映画を作りたいと、いつも思っています。『羊の木』はそういう自分の志向にとても合っていました」と答えた。

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 原作者の二人については、若い頃から大ファンだという監督。「山上たつひこさんは『がきデカ』とか『喜劇新思想大系』とか、小学生の柔らかい心であれほど過激なギャグ漫画で触れてしまえば影響を受けないわけがない。いがらしみきおさんも『ネ暗トピア』などのシュールな4コマ漫画を中学時代からずっと愛読していました。その二人が組んだ漫画ですから、いわばゴジラ対キングコングというか、勝新太郎と三船敏郎が対決する1970年の映画『座頭市と用心棒』というか、ある種の夢のプロジェクトですよ。それにこういう形でかかわれるのは光栄なことです」と興奮気味に語った。

 6人6様の罪はどのように決めたのか聞くと「それぞれが違う形の『殺人』を経て同じ場所にいる。周りに与えるプレッシャーを含め、どのバランスが効果的かを考えた」とのこと。錦戸さん演じる月末が、この殺し方なら嫌だけど事情は理解できる、この殺し方をした人には正直近寄りたくないなど、どこかに線を引き直す理由にもなるだろうという考えからだという。「新しい人間関係の中で、絶えず線を引き直さずにはいられない人間という生き物を見つめ続けたかった」と役柄と罪の設定意図を明かした。

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 映画をつくるモチベーションについては、決して答えを提示するために映画を作っているわけでなく、「興味のあることについて考えたいから映画をつくっている。大きな質問をつくっているようなつもり」だという。「初号が上がっても、気持ち的にはまだ道半ば。観てくれた人の感想を聞いたり、取材時に話し合ったりすることを通じて、質問に対する答えが見えてきて、自分の中で本当の意味で映画が出来上がっていく」。

 最後に流れる音楽も印象的だ。「ボブ・ディランの『デス・イズ・ノット・ジ・エンド』のカバーです。ニック・ケイヴとカイリー・ミノーグを始めとする、何人かのシンガーが一緒に歌っています。かつて人を殺した6人がそれぞれの罪を胸に映画そのものを振り返っているような、ある意味すごいハマり方」と、鎮魂歌としてゴスペル調の楽曲を選んだ理由を説明した。

 なお『羊の木』は、釜山国際映画祭に今年から新設された賞で、その年の最も才能あるアジア映画製作者を紹介する「アジア映画の窓」部門で上映された56作品から選出されるキム・ジソク賞を受賞。今後、さらに国際映画祭での上映も控えているという。(取材・文:芳井塔子)

『羊の木』は2018年2月3日全国公開

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