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ぐるっと!世界の映画祭

日本特集で盛り上がった!北米最大級のドキュメンタリー映画祭(カナダ)

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Hot Docs が所有する劇場。映画祭期間中は、配給会社などのインダストリーで参加している人たちのオフィスなど、参加者の拠点となっている。

【第59回】
 北米最大級を誇るドキュメンタリー映画の祭典・Hot Docs カナディアン国際ドキュメンタリー映画祭(カナダ)。“最大級”という表現は伊達ではなく、今年開催された第24回(2017年4月27日~5月7日)は、過去最高となる21万5,000人の観客を動員。その一役を担った日本特集「メイド・イン・ジャパン」に『わたしの自由について~SEALDs 2015~』で参加した西原孝至監督がリポートします。(取材・文:中山治美、写真:西原孝至、Hot Docs カナディアン国際ドキュメンタリー映画祭)

Hot Docs カナディアン国際ドキュメンタリー映画祭

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動員数で新記録更新

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出資者を募る企画マーケット・ピッチの様子。この荘厳な雰囲気漂う中でプレゼンテーションをしなければならない。まさに真剣勝負。
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上映会場の一つ、トロント大学内にあるイニス・タウン・ホール。ロビーにはカナダが誇る『イースタン・プロミス』(2007)などのプロデューサーであるロバート・ラントスと、アトム・エゴヤン監督の写真が掲げられている。ラントスはハンガリー、エゴヤン監督はアルメニアからの移民だ。

 Hot Docs カナディアン国際ドキュメンタリー映画祭(以下、Hot Docs)は、1993年にカナダ・ドキュメンタリー協会によって設立され、1994年に映画祭がスタート。新作上映やショーケースの場としてはもちろん、ピッチと称される出資者を募る企画マーケットは、オランダで開催される国際ドキュメンタリー映画祭アムステルダム(IDFA)と並んでドキュメンタリストたちには重要視されている。第24回は11日間で228本が上映され21万5,000人の観客を動員。世界から駆けつけた参加ゲストは225人以上に上ったという。

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ドキュメンタリー映画の制作の舞台裏を語り合う「On the Other Side of the Lens」と題したシンポジウム。手話通訳がいるのに注目!

 「ドキュメンタリーというジャンルが、すごく認識されているのだと実感しました。会場の一つには、Hot Docs が持っている劇場まであります。日本ではまだ、ここまで確立されていないように思います。また他の監督と話していても、この映画祭にプライオリティを置いている人が多く、僕の作品も含めてここが海外初上映という作品が多かった。その次に目指すならIDFAかな? とか。山形国際ドキュメンタリー映画祭の名前も上がっていました」(西原監督)。

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打ち合わせ中のボランティア・スタッフ。延べ700人が映画祭を支えているという。

 また教育プログラムにも力を入れており、映画祭期間中と秋・冬にも開催。オンタリオ州在住の7年生~12年生(※日本の中・高校生にあたる学年)なら無料で参加でき、指定作品鑑賞後に講師や映画監督たちとディスカッションをし、社会を見る目と思考能力を養う機会を設けている。

 「これだけ大規模な映画祭ですが、他の映画祭同様、多くのボランティア・スタッフによって支えられているそうです。その数、約700人。上映前に毎回、司会者が『皆さん、彼らに拍手を贈りましょう』とアナウンスする風習はいいなと思いました」(西原監督)。

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きっかけはTokyo Docs

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「メイド・イン・ジャパン」の記者会見では、上映作『ラーメンヘッズ』の出演者である「中華蕎麦 とみ田」(千葉県松戸市)の富田治店主が自ら特製つけ麺を振るまった。カウンターでは、記者たちが富田さんの一挙手一投足を見守っている。
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特集上映「メイド・イン・ジャパン」の記者会見の様子。この企画は、Tokyo Docs や、トロント・リール・アジアン国際映画祭のサポートを得て開催された。

 西原監督は劇映画『青の光線』(2011)で長編監督デビュー。続いて制作した『Starting Over』(2014)は第27回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュや第38回ヨーテボリ映画祭(スウェーデン)に選出されて現地に赴いた。日頃、TVでドキュメンタリー番組を制作しているが、長編ドキュメンタリーは『わたしの自由について~SEALDs 2015~』が初めて。Hot Docs の存在は、2011年にスタートしたドキュメンタリーの国際共同製作を支援する国際イベント Tokyo Docs で知ったという。Hot Docs では毎年1つの国を特集する「メイド・イン ……」のセクションがあり2017年は日本にスポットを当てることが決まっていたが、Tokyo Docs が作品申請の窓口になっていた。

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『わたしの自由について~SEALDs 2015~』はディメンションよりDVD発売中。

 「『わたしの自由について~SEALDs 2015~』の公開は昨年夏。撮影から配給・宣伝まで全部自分で行っていたので、国内上映で精いっぱいで、なかなか海外映画祭出品まで手が回らず。それでも、いくつか応募したのですが、なかなか選ばれませんでした」(西原監督)。

 そんな中、届いた Hot Docs からの朗報。『わたしの自由について~SEALDs 2015~』はこれが海外初上映となる。ほか、「メイド・イン・ジャパン」に選ばれた作品は次の通り。

■西原孝至監督『わたしの自由について~SEALDs 2015~』(2016)
舩橋淳監督『道頓堀よ、泣かせてくれ! DOCUMENTARY of NMB48』(2015)
■重乃康紀監督『ラーメンヘッズ』(2016)
中村佑子監督『あえかなる部屋 内藤礼と、光たち』(2015)
長谷川三郎監督『広河隆一 人間の戦場』(2015)
■時川徹監督『浮世絵ヒーローズ』(2016)

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上映スケジュール。『わたしの自由について~SEALDs 2015~』の英語タイトル『About My Liberty』の文字が。上映時間165分なので一際目立つ。

 期間中には西原監督ら現地入りしている監督たちが参加して市内の人気レストラン Momofuku Nikai で記者会見が行われ、会場では『ラーメンヘッズ』の出演者である「中華蕎麦 とみ田」(千葉県松戸市)の富田治店主が特製つけ麺を振るまった。

 「つけ麺が提供されるとあって約50人の記者が駆けつける盛況ぶりでした。ただラーメンやNMB48のようなアイドルのポップカルチャーの情報は現地にも広く知られているのに対して、社会情勢はあまり伝わっていないように思いました」(西原監督)。

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海外の人に見せるということ

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上映後、女性の権利向上運動を行っている女学生たちから質問を受ける西原孝至監督。
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Hot Docs のパネルの前で記念写真に収まる西原孝至監督。

 西原監督の『わたしの自由について~SEALDs 2015~』は、安全保障関連法案改正に揺れた2015年夏、日本の未来に危機感を抱いて立ち上がった学生団体「SEALDs」の活動に半年間密着したもの。上映は2回行われ、観客には女性の権利向上運動を行っている女子学生もいたが、年配の人が多かったという。

 「『ラーメンヘッズ』が毎回満席だったのに対し、自分の上映は6割程度の動員だったでしょうか。2015年夏、日本では国会前で連日反対デモが行われましたが、日本でそのようなことが起こっていたことを『知らなかった』という人ばかりでした。海外に当時の様子が知られていないのは、そもそも『メディアの怠慢じゃないか』とさえ指摘されました」(西原監督)。

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インダストリー・オフィスのロビー。こうした関係者が集まれる場所から、次のプロジェクトが生まれるのだ。

 さらに新たな課題も見つかった。『わたしの自由について~SEALDs 2015~』は、「これを見る観客は、ある程度の社会の流れは知っているだろう」ということを前提に、極力説明を排除し、音楽も控えるなどTVドキュメンタリーとは異なる手法を意識している。その日本公開版に英語字幕を付けたバージョンでは、背景が伝わりにくく「そのあたりの情報を付け加えることが、海外の人には必要かなと思いました」(西原監督)。

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映画祭のカタログ、オリジナルバッグなど。

 会期中は、ディレクターズ・ブランチやパーティーが連日のように開催されて、クラウドファンディングKickstarterを活用しての製作、国際共同製作、さらに劇場やテレビではなくAmazonビデオを公開の場とする昨今の市場の変化や展望を語り合うフォーラムやワークショップなどもあり、他のゲストと交流する機会も多かったという。

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西原孝至監督の新作は、目と耳が不自由な人たちと彼らを支える人たちの日常を見つめたドキュメンタリー『もうろうをいきる』。8月26日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。全国でバリアフリー上映を目指している。

 「実は劇映画を作ろうと脚本を書いているのですが、予算が集まらずなかなか製作できない。でも Hot Docs に参加していた監督たちと話していると、ドキュメンタリーとフィクションを分けて考えておらず、撮る題材によって手法を変えているという感じでした。その考え方は非常に刺激になりました。やはりこれまでの経験で、日本だけで製作・公開し、製作費を回収していくスタイルにも限界があります。フィクションを作るにしても次のステップとして、企画の段階から海外も視野に入れて動いていくことの重要性を実感しました。それにはまず、英語のブラッシュアップもしなければなりませんけどね(苦笑)」(西原監督)。

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西原監督的オススメ3本

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『ジョシュア:大国に抗った少年』の舞台挨拶の様子。主人公のジョシュア・ウォン(写真右から3人目)も登壇した。
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インダストリーの会場にズラっと並ぶ上映作品のポスター。

 滞在中は他の注目作もチェックしたという西原監督。印象に残った3作をあげてもらった。

■フェデリカ・ディ・ジャコモ監督『リベラ・ノス(原題) / Libera Nos』(イタリア・フランス)
 「昨年のベネチア国際映画祭オリゾンティ部門でオリゾンティ賞(最優秀作品賞)を受賞した作品です。悪魔祓いを行っているカトリックの教会やってくる、取り憑かれてしまった人何人かにフォーカスした、まさに『エクソシスト』の実録版です。話題性はバツグンなので、会場は満席でした」(西原監督)。

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過激派組織ISの実情に迫ったドキュメンタリー映画『シティ・オブ・ゴースト(原題) / City of Ghosts』。Amazon Studios が配給を手がけている。

マシュー・ハイネマン監督『シティ・オブ・ゴースト(原題) / City of Ghosts』(アメリカ)
 「メキシコのドラック密売組織と自警団の攻防戦に迫った『カルテル・ランド』(2015)が米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたハイネマン監督の新作です。今回も過激派組織ISの内部に肉薄するジャーナリストを追った緊張感溢れる作品で、上映後はその命懸けのジャーナリスト精神に対してスタンディング・オベーションが起こっていました。会場にはハイネマン監督と劇中に出演しているジャーナリストが舞台挨拶に来ていたのですが、そこにはボディガードの姿も。この作品がいかにキケンかということを肌で感じました」(西原監督)。

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ジョー・ピスカテッラ監督『ジョシュア:大国に抗った少年』(アメリカ・香港)はNetflixで配信中。

■ジョー・ピスカテッラ監督『ジョシュア:大国に抗った少年』(アメリカ・香港)
 「香港の雨傘運動を先導したジョシュア・ウォン君のドキュメンタリーです。すでにSEALDsと同じ学生運動でも香港の雨傘運動の世界的な注目の高さ、さらに、すでにNetflixで世界60~70か国で配信されていて、その作品の発表の仕方も参考になりました」(西原監督)。

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トロントの街ごと楽しむ

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この日の対戦はトロント・ブルージェイズvs.タンパベイ・レイズ。内野後方席でもこの視界の良さ!
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あの“ムネリン”こと川崎宗則内野手が所属していたトロント・ブルージェイズのホームグラウンドでもあるロジャースセンター。野球少年なら行かねば!

 西原監督は今回、羽田空港からエア・カナダの直行便でトロント入り。その渡航費と1週間の現地宿泊代は Tokyo Docs のサポートを受けた。映画祭の合間をぬって、ロジャースセンターでのメジャーリーグ「トロント・ブルージェイズvs.タンパベイ・レイズ」観戦、ロイヤルオンタリオ博物館、名門ジャズクラブ「ザ・レックス・ホテル・ジャズ&ブルース・バー」などへ赴いた。

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プログラム・ディレクターのシェーン・スミスと。彼のきめ細やかなメールで、大リーグ観戦の夢がかなった。

 「学生時代野球部だったのでメジャーリーグ観戦は夢で、今回初めてスタジアムで生観戦しました。ただ、どうしても見たい映画があったので、最後まで試合を見守れなかったのが残念だったのですが。この試合があるのを知ったのは、毎日届く、プログラム・ディレクターのシェーン・スミスさんのメールで。そこには今日の映画祭の予定が記されているのですが、同時にトロントで行われるイベントや観光、ショッピング情報も書かれているんです。そこに『野球観戦したければ、ブルージェイズの試合があるよ』と書かれていたのでスタジアムに行き、窓口で内野の後方席のチケットを購入しました」(西原監督)。

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トロントの初夏の風物詩といえばトロント・ジャズ・フェスティバル。そんなジャズ好きが集まる名物バーといえば「ザ・レックス・ホテル・ジャズ&ブルース・バー」。西原監督も映画祭の喧騒から逃れて、ジャズに酔いしれた。

 街を歩けば当然、人と暮らしが見えてくる。「アジア人が多く住んでいる街にも行ったのですが、中国や韓国からの移民の、2世・3世世代が土地に根付いて働いている姿を見ました。ほか、街を歩けば黒人やスパニッシュなどいろんな人種がいて、歴史的に多くの移民を受け入れて来た街なのだと実感します。実は上映時の質疑応答で『米国のトランプ政権をどう思いますか?』という質問も出ました。僕は『カナダのような多様性を重んじる国が好きなので、一緒に戦って行きましょう』と答えたのですが、現地の人たちと話しているとリベラルな人も多いし、いろんな価値を認めようとする雰囲気を感じました」(西原監督)。Hot Docs は多様な人種が住むこの街だからこそ、育まれてきた映画祭なのかもしれない。

西原孝至監督新作ドキュメンタリー『もうろうをいきる』

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