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最終限:ピクサーのアニメはどうやってできる?

ピクサー訪問記『モンスターズ・ユニバーシティ』編

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連載「ピクサー訪問記~『モンスターズ・ユニバーシティ』編」
最終限「ピクサーのアニメはどうやってできる?」

 本国アメリカはもちろん、日本でも2週連続ナンバーワンヒットを記録したアニメーション映画『モンスターズ・ユニバーシティ』『トイ・ストーリー』シリーズをはじめとする作品を手掛けてきたピクサーの最新作にして、2001年に発表された名作『モンスターズ・インク』の待望の続編となります。

 この連載では、そんなピクサーの社内に潜入し、さまざまなクリエイターにインタビューを敢行してきましたが、ついに今回が最終回!

 最終回では、ピクサーのアニメーションがどのようにできるかに密着しました!

取材・文:編集部 福田麗

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写真で紹介!ピクサーのあれこれ!

 ピクサーでは何よりも「ストーリー」のクオリティーが優先されることは第4限でも紹介しましたが、ストーリー=脚本ができたからといって作品ができるわけではありません。

 簡単に説明すると、監督やプロデューサー、脚本家たちが集まって「原案」を作り、その「原案」を基に脚本家が「脚本」を書き、その「脚本」を基にストーリーボードアーティストが「絵コンテ」を描き、その「絵コンテ」を基に「アニメーション(動画)」を作る……という流れになっています。

 では、実際に「絵コンテ」とはどんなものなのか?  こっそり見せてもらっちゃいました!

『モンスターズ・ユニバーシティ』

 絵コンテはこのようにコンピュータで描きます。描いているのは、ストーリースーパーバイザーを務めるケルシー・マンさんです。

『モンスターズ・ユニバーシティ』


『モンスターズ・ユニバーシティ』

 どのシーンかわかるでしょうか?
 物語の冒頭、サリーとマイクが部屋の中で言い争いをしている場面の絵コンテになります。すでに作品を観ている人にはわかるかと思いますが、完成した作品のシーンと構図はほとんど変わっていません。
 というのも、「絵コンテ」は脚本を映像にするときの設計図にあたるものなので、「どこにカメラを置くのか?」「どこにキャラクターを配置するか?」などなど、この段階で最終的な作品のイメージは決められてしまうからなのです。

 つまり何が言いたいかというと、ストーリーボードアーティストはめちゃくちゃ重要人物なのです……!

 簡単なスケッチではありますが、ちゃんとストーリーが伝わってきますよね。実は、それこそが「うまくいっているかどうか」を確認する一番いい方法だそうです。なので、ケルシーさんたちは一つシーンを作ると、それを監督をはじめとするストーリーチームに見せます。そして、そこで出た意見を基にまた作り直す……ということを繰り返すのだとか。『モンスターズ・ユニバーシティ』では、最終的には絵コンテだけで22万7,000枚以上になったそうです。

 そんな果てしなく重労働の絵コンテ作りですが、ケルシーさんいわく、考えることは一つだけだそう。

 それは、「ストーリーにとって何が重要か、どういう感情を出さないといけないか」ということ。

 だから、絵コンテの段階ではあえて細部を描くことはしないとか。ケルシーさんは「細部にこだわりすぎて、ストーリーを語るという大事なことに集中できないこともあるからね」と理由を明かしてくれました。

 では、次項では具体的な制作過程に迫ります!

ピクサー社員に直撃インタビュー!
『モンスターズ・ユニバーシティ』
ストーリースーパーバイザーのケルシー・マンさん

 本作のダン・スカンロン監督も含め、ピクサーで監督を務めている人にはストーリー部門の出身者が多いというのはあまり知られていない事実かもしれません。それだけピクサーではストーリーが重要視されているということであり、12の部署がある中でもストーリー部門は花形として知られています。

 とにかく、ワクワクドキドキさせるストーリーを!

 それを合言葉に制作に取り掛かるわけですが、実はスタート直後が一番大変なのだとか……。 本作でストーリースーパーバイザーを務めるケルシー・マンさんはこう明かします。

「僕たちは、監督や脚本家たちと一緒に大きなストーリールームに集まる。実際、今回脚本家は二人いる。ダン・ガーソンとロバート・L・ベアードだ。彼らは前作も手掛けている。そのほかに、ストーリースーパーバイザーやプロデューサーなど、みんなで集まって、映画の話を始めるんだ」

 ストーリーというと、脚本家と監督、それにプロデューサーが関わる程度に思われがちですが、他にストーリー専門の人が参加しているわけです。

「僕たちはとても広い意味で映画について話し始める。それは建物を作ることに似ているよ。まず設計図を作ろうとするんだ。そのためには、とてもしっかりとした基礎が必要になる。その段階では、細かいことを気にする必要はない。そして『基礎がある程度固まってきたな』と思ったら、それを脚本にする」

『モンスターズ・ユニバーシティ』
「僕たちは最初、何もない真っ白のページから始める」と明かすケルシー・マンさん

 あれ? 脚本を書き始める前に、ストーリーの基礎をがっちり決めないでも大丈夫なのでしょうか?

「僕たちは最初、何もない真っ白のページから始める。こればかりはいつまでたっても慣れることがない、最も恐ろしいものだ。だから、取りあえず何かを書くようにするんだ。そうすれば、それに対して反応することができるからね」

 なるほど……! 「とにかく書き始める」というのが重要なんですね。

「それで脚本ができると、ストーリーボード(絵コンテ)に移っていくんだ。脚本の段階では、映画をシーンごとに分けていく。そして、それをストーリーボードアーティストに渡すんだ。このときもただ渡すのではなくて、それぞれのアーティストの特徴を考えないといけない。もしもユーモアたっぷりなシーンだったら、そういうのがとてもうまい人に。もし感情的なシーンだったら、感情表現がうまい人をそのシーンに……という感じでね。まさに映画のキャスティングみたいなものだよ」

 それで完成するのが、前項で見た絵コンテというわけですね。ちなみにストーリーは途中で変更されることもあるので、監督やプロデューサーを除けば、最も長く作品に携わることも多いそう。『モンスターズ・ユニバーシティ』の場合は何と4年もかかったそうです。

こんな仕事をしています!
『モンスターズ・ユニバーシティ』
映画『モンスターズ・ユニバーシティ』より

 さて、これまでに紹介したようにケルシーさんが主導する形で「絵コンテ」が出来上がりましたが、今度はそれを実際に「アニメーション(動画)」にしていかなくてはなりません。これは「絵コンテ」で描かれたものを実際に「アニメーション」にする作業……すごく単純に言うと、映像に命を吹き込む作業です。

 そこで登場するのが、アニメーターの皆さん。今回はスーパーバイジングアニメーターを務めるスコット・クラークさんに話を聞きました。ピクサーでは17年働いていて、前作『モンスターズ・インク』にも関わっているというベテランです。

『モンスターズ・ユニバーシティ』
スコット・クラークさん

Q:簡単にアニメーターの仕事を教えていただけますか?

 ストーリーボード(絵コンテ)が面白く「これは作る価値がある。これは映画の中に入れるぞ」となったら、それをレイアウトのプロセスに回すんです。レイアウトの担当者はいってみれば、撮影監督のようなもので、彼らがどこにカメラを置くかを決めます。「ここは広角レンズか、それとも望遠レンズか?」とか「このシーンでは全てのキャラクターを画面に入れるか?」とかですね。

Q:その段階ではまだアニメーションは荒削りなんですか?

 そうですね。まだブロッキング(シーン内のキャラクターの動き)はラフなことがほとんどです。それは子どもがアクションフィギュアで遊びながら、「このキャラクターはこっちに行って、立ち止まり、これをするんだ」と言っているようなものですからね。

『モンスターズ・ユニバーシティ』
サリーが踊るシーンのアニメーション作業

Q:では、次の段階でもっと細かなアニメーションになるわけですね。

 その通り。そして、それがアニメーターとしての僕の仕事です。キャラクターに命を吹き込むといってもいいと思います。だから僕が仕事を終えたとき、僕がちゃんと仕事をしていたら、サリーは本当に息をしている、生きているキャラクターのように感じるはずなんです。

Q:作業にコツのようなものはありますか?

 最高のアニメーターたちであっても、ただ机で絵を描くことは少ないと思います。僕が知っている人たちは立ち上がって、実際に自分がキャラクターになりきってみます。そうやって、その動きがどういったものなのかを自分の体で感じるんです。僕もそうしている自分をビデオで撮ったことがありますよ。

『モンスターズ・ユニバーシティ』
こんなふうに踊ることも……あるよ!

Q:そういう人ばかりなんですか!?

 もちろん、違いますよ(笑)。多くのアニメーターたちはとても内省的で恥ずかしがり屋だったりするから、カメラの前で演技したくないと思っているでしょうね。だから、キャラクターを借りて自分の演技をするのが好きなんです。僕はその両方といった感じでしょうか。僕は恥ずかしがり屋じゃないけど、普段は自分が演技しているところを人に見せたりはしませんからね(笑)。

Q:自分で演技をしているとなると、キャラクターが自分に似てきてしまうということもあるのではないでしょうか?

 そうですね。そういうことも確かにありますね。時々、アニメーターたちの癖がキャラクターに見えたり……でも、そういったことには注意を払わないといけません。実際に多くのアニメーターたちによって描かれていても、サリーだとわからないといけませんからね。

『モンスターズ・ユニバーシティ』
スコット・クラークさん

Q:なるほど。

 あと、もう一つ僕が言いたいのは、もしも僕がモーションキャプチャーをしたとしたら、それはサリーのスーツを着た僕のように見えるけど、決してサリーのようには感じられないということですね。だから僕たちアニメーターが重視するのは、リアリズムではなく、漫画的・アニメ的な表現なんです。サリーのスーツを着たスコット・クラークではなく、本物の、体のでかいモンスターがそこにいないといけない。つまり、リアリズムよりも信ぴょう性の問題なんです。誰かを漫画的に描いたドローイングはよくありますが、その中には時々、写真よりもその人らしく感じられるものがあったりします。それこそが素晴らしいアニメーションだと僕は思いますよ。

 監督やプロデューサーはもちろん、アニメーションへの熱い思いを語ってくれたスコット・クラークさん、ストーリーへのこだわりを見せてくれたケルシー・マンさんなど、多くのスタッフが集まって完成したのが、『モンスターズ・ユニバーシティ』です。

 普段アニメを観るときには作り手のことを気にすることは少ないかもしれませんが、彼らのこだわりを知ると、もっと作品が楽しくなることは間違いありません! すでに観たという人はもう一回、まだ観ていないという人は取りあえず、作品を観てはいかがでしょうか? 

 何度観ても、新たな発見がそこにはあるはずです!

映画『モンスターズ・ユニバーシティ』は2D・3D同時公開中
(C) 2013 Disney / Pixar. All Rights Reserved.

特集「ピクサー訪問記 『モンスターズ・ユニバーシティ』編」バックナンバー

■第1限「ピクサーってこんな会社!」
■第2限「ピクサー社員のオフィスに潜入!」
■第3限「ピクサーで働く? それとも遊ぶ?」
■第4限「ピクサーがオリジナルにこだわる理由」
■特別講義「ピクサーのトップが語る未来」

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