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JASRACと全興連、決着はどこに 洋画音楽使用料システム変更の狙いを聞く

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東京・JASRACの本部ビル
東京・JASRACの本部ビル

 昨年11月8日、日本音楽著作権協会(以下、JASRAC)が「外国映画に使用される音楽の上映使用料」を現行の一律18万円から、興行収入の1~2パーセント相当の従量制に変更する方針を発表した。この主張に対し、全国興行生活衛生同業組合連合会(以下、全興連)は、書面にて反論するなど、大きな波紋が広がった。JASRAC側の主張は、正論なのか、はたまた暴論なのか。JASRAC大橋健三常務理事に話を聞いた。

■このタイミングでの発表の意図

 「外国映画に使用される音楽の上映使用料」がJASRACと全興連の間で協議の上、契約として取り交わされたのは1964年、いまから54年前にさかのぼる。そこから両者の話し合いにより、金額は改定されてはいるが、基本的には“一律”という部分に変化はなく、現在の18万円という数字に至っている。その“一律”を、興行収入に比例した“従量制”に変更したいというのがJASRAC側の主張だ。

 この点に関して大橋氏は「現状、外国映画が全興連加盟映画館で上映された場合の上映使用料は、例えば数週間で終わった映画でも、数百億の興行収入を挙げた『アバター』や『アナと雪の女王』でも、一律18万円なんです。外国映画の場合、JASRACは、CISAC(著作権協会国際連合)に所属している世界各国の著作権管理団体、例えばアメリカのASCAP、BMI、ドイツのGEMA、フランスのSACEMなどと相互管理契約を締結しているため、日本での上映使用料を徴収し、使用されている曲の権利をもつ団体に、分配をしています。しかも現状では“一律”のため、単純に作品のなかで100曲使われていた場合、18万円÷100=1,800円になります。その金額が当該作家への分配額の原資となるわけです」と現状を説明する。

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 こうした金額が、欧州諸国の水準と大きくかけ離れているというのだ。欧州では使用料規定に定める料率は、フランス(SACEM)が興収の2%、イタリア(SIAE)が2.1%、スペイン(SGAE)が2%、ドイツ(GEMA)が興収の1.25%となっている(一定の条件のもと、使用料を軽減する取扱いが別途設けられている場合がある)。実際の数字(2014年度の資料)を見ると、フランス(SACEM)が総興行収入1,837億円に対して映画上映使用料徴収額が22億7,307万円(興収の1.2%)、イタリア(SIAE)が808億円に対して17億848万4,000円(興収の2.1%)、ドイツ(GEMA)が1,377億円に対して12億7,332万円(興収の0.9%)という実情だ。一方、同年の日本の総興行収入約2070億円に対して、徴収金額は1億6,650万円。興収の0.08%という数字となっている。

 JASRAC側は「国際水準に比して明らかに低い数字」と主張する。大橋氏は「例えば『アナと雪の女王』は日本では約245億円という興収でしたが、日本での映画上映使用料としての徴収額は18万円です。しかし、フランスで同じ興収を挙げた場合、5億円以上の徴収金額になります。作家が明細を見たとき、格差はあからさまになりますよね。ここ10年来、アメリカやヨーロッパの作家から『なんとかしてほしい』という要請が、各著作権管理団体からJASRAC側に強くあるのは事実です」と語る。

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 諸外国の著作権管理団体から“圧力”と言ってしまうと語弊があるかもしれないが、以前からかなり強い要望があるというのは事実のようだ。

■映画上映使用料の徴収基準の見直し案

 こうしたなか、JASRACは前述のように外国映画の上映使用料を「興行規模に応じたものに変更する方針」を全興連に伝えた。これは、欧州諸国の映画上映使用料をモデルにしているという話だったが、全興連側は昨年11月29日に「外国映画に使用される音楽の上映使用料に関するJASRACの見解について」という書面で「当連合会が属する娯楽産業の営業利益率は3.52%。そのなかで、JASRACは映画の興行収入の1~2%に当たる金額の徴収を最終的に目指すという。これは営業利益の半分~3分の1という数字で、もしこのような徴収が行われれば、当連合会に所属する興行各社の経営の存在基盤は大いに揺らぐ」と抗議している。

 実際、興行収入をベースに、その1~2パーセントを映画上映使用料とするJASRAC側の主張に対して、多くの議論が巻き起こっているが、もっとも違和感を覚えるのが「興行収入ベース」というキーワードではないだろうか。上映権とは、著作物を、機器(映写機やパソコンなど)を通して、公に上映する権利であり、著作者はその権利を専有する。つまり、劇場で上映する場合に使用料が発生する。

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 劇場で上映される回数が多ければ多いほど、曲が流れる回数は増えるため、その金額が上がるというのも、理解できるだろう。こうした前提のなか、興行収入というのは、上映スクリーン数や上映回数の一つの目安となる基準になる。しかし、同じ1回の上映でも、大人と子どもでは入場料は異なり、また各種割引料金も多様化している。3Dや4DX(MX4D)でも入場料は違う。音楽が“使用”された料金という意味では、興行収入をベースにするのは、やや乱暴ではないのだろうか。

 大橋氏は「興行収入は劇場側が100%とるわけではなく、もちろんすべてが収益になるわけではないことは存じ上げています。『興行収入の1~2%』という言葉が独り歩きしていますが、あくまでも欧州の料率であり、分かりやすいという意味で申し上げただけで、実際、全興連さんに提案している内容はもっと細かい計算式です」と述べる。

 具体的な計算式については明言しなかったものの、「ご指摘のとおり、入場料にはさまざまなパターンがありますので、等級別の平均値を計算したり、興行収入を動員数で割って平均入場料を出したりして、いわゆる興行収入とは違う。その作品の基準額のようなものを計算して、そこにパーセントをかけるような数式を全興連さんには提案しているのです」と大橋氏は説明する。

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 さらに「映画に使用される楽曲といっても、一つの作品のなかでの曲数、頻度は千差万別です。実際、邦画に関しては1曲ごとに使用料は算出(日本映画は1曲当たり、映画録音使用料(5万円)×5%×同時上映最大スクリーン数という計算式のもと映画上映使用料が支払われている)されており、そのあたりのボリュームも考慮に入れた減額係数は全興連さんには、一昨年の段階で提案しています。例えば、ミュージカル映画のように、ほぼ全編を通して音楽が使用されているものと、10分程度しか使用されていないものでは、係数も違う。当然、金額も変わってきます」とJASRAC側の提案内容の一部を明かした大橋氏。大きな徴収金額になる作品もあれば、現状の18万円に満たない作品も出てくる可能性もあるということだ。

■全興連側の提案

 こうしたJASRAC側の提案に対して、全興連はどのような見解を示しているのだろうか。12月6日の朝日新聞の朝刊「文化・芸術」欄には、スクリーン数が100未満の作品=18万円、100~300未満=20万円、300以上=25万円という全興連側の対案を掲載している。

 この記事に対して大橋氏は「全興連さんが、記事のような提案をされたのは事実です。数年来、外国映画の上映使用料については全興連さんと話し合いをしてきた際は、先方もかなり頑なだったのですが、私どもの提案とはまだまだ開きがあるとはいえ、一律18万円というところから一歩踏み出したという点では、大きなことだと思います」と理解を示す。

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 とは言うものの、先ほどの例に出した『アナと雪の女王』に当てはめるなら、全興連側の案では25万円という使用料になり、JASRAC側の金額とは大きな開きがある。実際のところ、落としどころはどこになるのだろうか。

 最終的な理想形はあるものの、まずは日本映画と同じ徴収方法を目指すというのがJASRAC側の当面の目標だという。「欧州諸国を見ても、いわゆる国内映画と海外映画で徴収方法が違うということを聞いたことがありません」と大橋氏は指摘すると「やっぱり洋邦の格差があってはいけないと思うのです。『最低限、そこの格差を埋めさせてください』というのが、いまの段階のお願いなのです」と話す。

 残念ながら、JASRACが提案している従量制導入についてのプランや、「当面、日本映画と同じ徴収方法を目指す」という方針についての全興連側からの回答が得られなかったため、双方がどの程度、歩み寄っているのかは把握できないが、JASRAC側は「来季(2018年4月以降)からは、一律18万円という現状を打開したいと思っています」と強い姿勢を見せる。

■冷静な判断が必要

 本件は「JASRAC側の値上げ」、「小規模経営の映画館には死活問題」などドラスティックな見出しで報道されることが多かったが、昨年11月29日に発表された全興連側のリリースにある「今後も引き続き、JASRACとの間で協議を誠実に進められることにより、お互いにとって実りあるパートナーシップの発展につながる成果が得られることを確信しております」という文言や、大橋氏の「JASRAC側としては、強固にこちらの主張を進めていこうと思っているのではなく、全興連さんのおっしゃるとおり、真摯に協議をしながら、パートナーシップを意識して、映画界の発展のために良い関係を築きたいと思っています」という発言から、双方の主張には、まだ大きな隔たりはあるものの、“映画産業の繁栄”という意味でのコンセンサスはとれている。

 一概に諸外国の基準に当てはめて論じてしまうことに危険性があることも考慮に入れなくてはならない。これまで触れてきたこと以外にも、邦画で使用される書き下ろしの楽曲は、著作者と映画製作者の間で上映使用料を含めた包括的な契約をすることが通例で、JASRACの管轄外になることが多いという事実や、全興連に所属していない劇場も一定数ある。

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 また、映画上映使用料の支払者を、製作者または配給業者から劇場に変更しようというJASRAC側の意図に対して、「映画館の経営を圧迫する」と報道されることについては「映画館との上映許諾のスキームを契約上設けたいとは思っていますが、お金の出どころは、今まで通り製作や配給会社が支払っても問題はありません。あくまで原理原則として、上映使用料というのは、映画上映主体である劇場が払うべきだという考えであって、映画館の経営を圧迫することが本意ではありません」と大橋氏は語る。

 全興連側にも取材を申し込んだが、年明けにもメディアなどに向け、状況の説明を行う予定だという。その場で、JASRAC側が主張する2018年4月からの徴収金額の変更に対する対案のアップデートはあるのか。互いの主張の落としどころをどこにもっていくのか。まだまだ全貌が見えてこない現状だが、どちらが正義でどちらが悪という明確な構図としてとらえると、本質を見失ってしまう危険性がある。客観的かつ冷静な判断が必要だ。(磯部正和)

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