間違いなしの神配信映画『FYRE：夢に終わった史上最高のパーティー』Netflix
神配信映画
音楽編 連載第4回（全7回）
ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回は音楽編として、全8作品、毎日1作品のレビューをお送りする。
超豪華なはずの音楽フェスが、ずさんな計画でカオスと化す！
『FYRE：夢に終わった史上最高のパーティー』Netflix
上映時間：97分
監督：クリス・スミス
出演：ビリー・マクファーランド、ジャ・ルール、アイディ・キング、ディビッド・ロウ
確かに「音楽映画」と言えば「音楽映画」になるのだろうけど、これはなんと奇妙なドキュメンタリー映画なのだろうか。2017年に開催されるも、史上まれにみる大失敗に終わった音楽フェスティバル「ファイア・フェス」の顛末を、その関係者および参加者たちのインタビューや個人映像などで描き出したドキュメンタリー映画『FYRE：夢に終わった史上最高のパーティー』のことである。
そう、この映画が最も奇妙なのは、「音楽フェス」を描きながら、そこに「音楽」の存在が、丸っきり抜け落ちていることなのだ。
カリブ海に浮かぶバハマの小さな孤島を貸し切って、これまで誰も体験したことのないゴージャスな音楽フェスティバルを開催しよう。そんな「ファイア・フェス」を企画したのは、20代の若き起業家、ビリー・マクファーランドだ。
ミレニアル世代の嗜好を反映した、会員制のクレジットカードの発行で成功を収めた彼は、ヒップホップ界の大物ジャ・ルールと知己を得たことをきっかけに、ユーザーがアーティストやタレントと直接出演交渉ができるアプリを開発。それを大々的に宣伝するイベントとして思いついたのが、「ファイア・フェス」の開催だった。
そこでまず彼らが行ったのは、フェスのプロモーションビデオを制作することだった。といっても、今回が初開催のフェスなので、過去の映像があるわけでもなく……彼らはフェスの会場を予定していた南の島に水着姿のトップモデル10名と乗り込み、ひたすらキャッキャ、ウフフと戯れる様子を撮影する。そう、完全なイメージビデオだ。
しかし、インスタグラムなど各SNSと連動したその映像は、契約済みのインフルエンサーたちの押し上げもあって瞬く間に話題となり、広告代理店やメディアからも問い合わせが殺到。その詳細も不明のまま売り出されたチケットは、最高250万ドル（約2億7,500万円。1ドル=110円換算）という尋常でない高値でありながら、即刻完売してしまうのだった。
いち視聴者として観ていても、かなり早い段階から失敗しそうな気配が濃厚なこのフェスの当日に至るまでの様子を、カウントダウンするかのごとく描き出してゆく本作。それは、冒頭から嫌な予感がしているのに、その流れを決して誰も止めることができない……そんなホラー映画を観ているようですらある。
当初の晴れやかなイメージから一転、その計画のずさんさが徐々に伝わっていくにつれ、にわかに不安になっていくフェスの参加予定者たち。その不安はやがて、激しい怒りとなって運営側に襲い掛かってくるのだった。そして、まるでパニック映画のように凄惨な、フェス当日のあまりにもカオスな光景よ。
それにしても、冒頭にも書いたように、南の島と青い海、そして水着美女など、「素敵な体験」のイメージだけはあるものの、そこで奏でられる「音楽」について、本作ではいっさい描かれないのは少々気になるところではある。ビリーをはじめとする主催者側が「音楽」に寄せる情熱とは、どんなものだったのか。それとも、そんなものは最初からなかったのか。
ここ日本でもすっかりお馴染みとなった音楽フェスティバル。しかし、それはもはやインスタ映えする「素敵な体験」に過ぎない……そんなニュアンスも少なからずあるのではないだろうか。その良し悪しについては、ここでは問わない。ただし、そもそも「音楽」とは何なのか。そして、「音楽フェスティバル」とは何なのかについて、改めて考えさせられるような一本ではあった。（麦倉正樹）
