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Netflixやアマゾンがごっそりお買い上げ!サンダンス良作争奪戦!

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サンダンス映画祭

 現地時間1月19日から29日まで米ユタ州パークシティでサンダンス映画祭が開催された。インディペンデント映画を支援するためにロバート・レッドフォードが始めたサンダンス・インスティテュートが主宰する映画祭で、北米はもとより、世界中から集められた斬新で質の高いインディペンデント映画が上映される。新しい才能の発掘の場として、ハリウッドがここに押し寄せるようになって久しいが、サンダンスから出てきた監督にはクエンティン・タランティーノロバート・ロドリゲスブライアン・シンガー、最近では、2013年に『セッション』の基となった短編で審査員賞を獲得し、翌年『セッション』で観客賞と審査員大賞をダブル受賞したデイミアン・チャゼルらがいる。(取材・文:吉川優子)

 レッドフォードは初日の記者会見でサンダンスは政治に関わらないとし、「ストーリーテラーたちを支援し、彼らがストーリーを語るのを支援する方がもっとずっと重要だからだ。もしそのストーリーに政治が出てきたら、それは構わない。でも我々は立場を表明しない」と語った。一方、環境問題に関わることにはこれまで通り非常に積極的で、今年初めて「The New Climate」というプログラムを立ち上げて環境問題を扱った映画を上映し、アル・ゴアのドキュメンタリー映画『不都合な真実』の続編となる『アン・インコンビニエント・シークエル:トゥルース・トゥ・パワー(原題) / An Inconvenient Sequel: Truth to Power』がお披露目された。

 政治的な立場は取らないとは言っても、映画祭開催期間中に大統領就任式があったこともあり、1月21日にはパークシティのメインストリートで多くの人々が参加して「ウィメンズ・マーチ」が行われ、シャーリーズ・セロンローラ・ダーンらが参加した(映画祭とは関係なく行われた)。授賞式のスピーチでも、イスラム諸国から来たフィルムメーカーたちを応援し、多様性の大切さを訴え、トランプ政権を批判する声が相次いだ。

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日本人監督も!注目の受賞結果

『アイ・ドント・フィール・アット・ホーム・イン・ディス・ワールド・エニーモア。(原題)』
これがイライジャ!? - 『アイ・ドント・フィール・アット・ホーム・イン・ディス・ワールド・エニーモア。(原題)』

 ドラマ部門審査員大賞は、メラニー・リンスキーイライジャ・ウッド主演、俳優メイコン・ブレアの監督デビュー作である『アイ・ドント・フィール・アット・ホーム・イン・ディス・ワールド・エニーモア。(原題) / I Don't Feel at Home in This World Anymore.』が受賞。泥棒に入られた女性(メラニー)が、変わった隣人(イライジャ)と一緒に犯人を探すうちに、どんどん暴力的なことに巻き込まれていくという意外な展開のブラックコメディーで、そのオリジナリティーが高く評価された。1年前、メイコンが企画を売り込み、Netflixが製作費を出して制作された。

 ドキュメンタリー部門審査員大賞は、夫を亡くし、恋人に襲われた経験がある自閉症的な女性ディナと、ウォルマートで働くスコットが心を通わせ、結婚することになる様子を温かい眼差しで追った感動作『ディナ(原題) / Dina』が受賞。

『クラウン・ハイツ(原題)』
『クラウン・ハイツ(原題)』

 最も注目されるドラマ部門観客賞は、実話に基づいたマット・ラスキン監督作『クラウン・ハイツ(原題) / Crown Heights』が獲得。犯行現場に居なかったのにもかかわらず、殺人罪に問われて20年以上も服役したアフリカ系アメリカ人コリン・ワーナーの苦悩と、彼の無実を証明するために奔走する友人を描くドラマだ。若手注目株のレイキース・リー・スタンフィールドがコリンを好演しており、アメリカの司法制度の矛盾をあらためて考えさせられる力作。アマゾンが200万ドル(約2億3,000万円)以上で買い付けたそうだ。(1ドル115円計算)

 ドキュメンタリー部門観客賞は、温暖化現象のため、世界中でサンゴ礁が絶滅の危機を迎えているということを訴えたジェフ・オルノフスキー監督の『チェイシング・コーラル(原題) / Chasing Coral』が受賞。彼の前作『チェイシング・アイス(原題) / Chasing Ice』の続編とも言うべきドキュメンタリーで、こちらはNetflixが購入した。

『そうして私たちはプールに金魚を、』
『そうして私たちはプールに金魚を、』

 短編部門では、日本人監督・長久允の『そうして私たちはプールに金魚を、』が審査員大賞を受賞。2013年夏に4人の女子中学生が400匹の金魚をプールに放った「狭山市女子中学生金魚事件」を原案にした作品だ。

 また、サンダンス・インスティテュートとNHKのコラボレーションは20年以上も続いており、毎年、世界中から選ばれた優れた脚本にサンダンス・インステュート/NHK賞を授与し、これまでに『セントラル・ステーション』や『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』などの名作を生み出してきた。授賞式で発表された今年の受賞者は、無政府主義のグラフィティアーティストが主人公の『アイ・ケイム・バイ(原題) / I Came By』を執筆したロンドン在住のイラン人監督ババク・アンヴァリだった。

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Netflixやアマゾンがごっそり買い付け!

 毎年サンダンスではヒットを狙えそうな作品をめぐって配給会社が争奪戦を繰り広げるが、今年は特にスタジオではなく、Netflixやアマゾンといったストリーミング配信会社の気前のいい買い付けが目立った。

 まず、合計10本も買ったというNetflixは、最終日に黒人女性監督ディー・リースの『マッドバウンド(原題) / Mudbound』を何と1,250万ドル(約14億3,750万円)という高値で購入した。第2次世界大戦後の南部を舞台にある白人家庭と黒人家庭を描いた壮大なドラマで、ジェイソン・クラークキャリー・マリガンギャレット・ヘドランドジェイソン・ミッチェルらが出演。黒人に対する差別がひどかった時代を描いており、ギャレットとジェイソンが築く友情が意外な結末を招くことになる。

『トゥ・ザ・ボーン(原題)』
キアヌとリリーが共演! - 『トゥ・ザ・ボーン(原題)』

 また、拒食症に苦しむ人たちを描いた『トゥ・ザ・ボーン(原題) / To the Bone』を800万ドル(約9億2,000万円)で、ジェシカ・ウィリアムズがニューヨークの劇作家を演じるコメディー『ジ・インクレディブル・ジェシカ・ジェームズ(原題) / The Incredible Jessica James』を300万ドル(約3億4,500万円)程度で購入した模様。『トゥ・ザ・ボーン(原題)』はマーティ・ノクソン監督の半自伝的な映画で、ティーンエージャーの頃、摂食障害があったというリリー・コリンズがかなり体重を落として役に挑み、キアヌ・リーヴスが医者を演じている。重い題材を扱いながらもユーモラスなところがいい。

 さらに、ロシアのドーピング問題を暴露したブライアン・フォーゲルのドキュメンタリー『イカロス(原題) / Icarus』も500万ドル(約5億7,500万円)で買い付けている。

 次にアマゾンだが、テレビドラマ「シリコンバレー」で知られるパキスタン系アメリカ人コメディアン、クメイル・ナンジアニが妻と脚本を書き、ゾーイ・カザンホリー・ハンターと共演した『ビッグ・シック(原題) / Big Sick』を1,200万ドル(約13億8,000万円)で購入。クメイルと妻が付き合い始めた頃の関係を描いた半自伝的なロマンスで、ジャド・アパトーがプロデューサーを務めている。また、マーティン・スコセッシが製作総指揮を務めたロックバンド、グレイトフル・デッドのドキュメンタリー『ロング・ストレンジ・トリップ(原題) / Long Strange Trip』や、ISISのドキュメンタリー『シティ・オブ・ゴースツ(原題) / City of Ghosts』、ジョン・タートゥーロイーディ・ファルコ出演のニューヨークを舞台にしたドラマ『ランドライン(原題) / Landline』などを買い付けた。

 押され気味とはいえ、スタジオのインディー部門ももちろん健在だ。昨年のサンダンスで最大の話題となった『バース・オブ・ネイション(原題) / Birth of Nation』を1,750万ドル(約20億1,250万円)で買い付けたフォックス・サーチライトは、作品がその後、不成功に終わったにもかかわらず、ラップ・コメディー『パティ・ケイクス(原題) / Patti Cake$』を950万ドル(約10億9,250万円)で、ミュージカルドキュメンタリー『ステップ(原題) / Step』を400万ドル(約4億6,000万円)で購入と、大きな買い物をしている。

『コール・ミー・バイ・ユア・ネーム(原題)』
『コール・ミー・バイ・ユア・ネーム(原題)』

 ソニー・ピクチャーズ・クラシックスが、映画祭が始まる前に600万ドル(約6億9,000万円)で買い付けたルカ・グァダニーノ監督の『コール・ミー・バイ・ユア・ネーム(原題) / Call Me by Your Name』はイタリアの夏を舞台にしたマジカルなゲイのロマンスで、映画祭で最も評価が高かった作品の一つ。アーミー・ハマーティモテ・シャラメ『インターステラー』ではマシュー・マコノヒーの息子役)が共演している。

 これだけ多くのセールスが行われたというのは、インディペンデント映画作家にとってはもちろん朗報だ。大きく劇場公開されるのかどうかといった問題はあるだろうが、世界中で多くの人々に観てもらいたいというのは全てのクリエイターたちの願いだろう。今年サンダンスで発掘された作品が一般の観客にどのように受け入れられるのか、来年のアカデミー賞に絡んでくるのか、それとも『ウィンターズ・ボーン』ジェニファー・ローレンスのように新たなスターが生まれたりするのか、今後の展開が楽しみだ。

【今月のHOTライター】
吉川優子
俳優や監督の取材、ドキュメンタリー番組や長編映画の製作など、幅広く映画に関する仕事を手掛ける。最近の作品は「ハリウッド白熱教室」など。

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