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ぐるっと!世界の映画祭

ダライ・ラマからR21映画まで多様な仏教映画を上映!シンガポールの仏教徒映画祭

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【第76回】(シンガポール共和国)

 東南アジアの中心都市シンガポールは、言わずと知れた多民族国家。宗教も多様で、東京23区ほどの面積の街に寺院やモスクがひしめき合っています。その街で、2年に1度開催されるのが仏教徒映画祭。モテまくる修行僧の苦悩を描いた異色時代劇『仁光の受難』(2016)が第5回(現地時間9月22日~29日)に選ばれて、現地でちょっとした物議を醸した庭月野議啓監督がリポートします。(取材・文:中山治美、写真:庭月野議啓、仏教徒映画祭)

仏教徒映画祭上映作品
仏教徒映画祭上映作品。『仁光の受難』はソールドアウト!?

仏教徒映画祭

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仏教団体が主催

映画祭グッズ
映画祭グッズもあります。

 仏教徒映画祭の正式名称は、仏教の教文の冒頭に書かれている「如是我聞(かくのごとく、我聞けり」の意味を持つ「Thus Have I Seen Buddhist Film Festival(以下、THISBFF)」。主催は、仏教の価値観と哲学に根ざした文化・教育プログラムを実施している仏教徒の法人団体「ダルマ・イン・アクション」。2009年にスタートし、上映作品はもちろん全てが仏教をテーマにしたもの。2012年からは隔年で開催されている。 

テオ・プイ・キムと庭月野監督
映画祭委員長のテオ・プイ・キム(写真左端)と舞台挨拶する庭月野監督(写真中央。右端は通訳)。

 これまで上映された日本関連作品は、スイスのトミー・メンデル監督の日本・スイス合作映画『歩き遍路』(2006)、タハラレイコ&上杉幸三マックス監督の日本・アメリカ合作映画『円明院~ある95歳の女僧によれば』(2008)、小村敏明監督『BUDDHA2 手塚治虫のブッダ-終わりなき旅-』(2014)、アレクサンダー・ウーイ監督のオランダ映画『ゼン・アンド・ウォー(原題) / Zen and War 』(2009)、光石富士朗監督『ダライ・ラマ14世』(2015)。世界中で年間何万本もの映画が製作されている中で、実に的確にセレクションされている。

書籍コーナー
映画祭の書籍コーナーも仏教関連の本がズラリ。

 そして今年上映された主な作品は華道家元・初代池坊専好の伝説に着想を得た野村萬斎主演『花戦さ』(2016)から、カンボジア・プノンペンのボンコック湖埋め立て開発による対立が、人権問題にまで発展したことに毅然と抗議した僧侶たちの姿もとらえたクリス・ケリー監督『ア・カンボジアン・スプリング(原題) / A Cambodian Spring』(2016)、20年以上ダライ・ラマ14世を取材し続けているミッキー・レムル監督『ザ・ラスト・ダライ・ラマ?(英題) / The Last Dalai Lama?』(2016)など16本。賞などはなく、上映とゲストを招いての交流が中心となる。

 「観客は必ずしも仏教徒ではないと思いますが、スタッフはやはり熱心な仏教徒です。ウェルカム・ディナーではお酒はなくお茶。食事も肉、魚料理はなくベジタリアンフードというのは初めての体験でした」(庭月野監督)

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R21作品に仏教連盟が批判!

仁光の受難
『仁光の受難』 発売・販売:ポニーキャニオン 価格:DVD¥3,800(税別)(C) TRICYCLE FILM

 映画祭の開幕を直後に控えた8月中旬。シンガポールの新聞 The Straits Times に「仏教連盟が仏教徒映画祭のリスクある上映作品に懸念」との見出しがついた記事が掲載された。その対象となったのが庭月野監督『仁光の受難』だ。

観客の年齢層は高め
『仁光の受難』はR21のレイティングが付いたため、観客の年齢層は高め。

 同作は性欲の煩悩にさいなまれる修行僧が主人公で、胸をはだけた村娘に追いかけられたり、修行僧仲間に迫られるシーンもある。日本ではPG12(12歳未満の年少者の観覧は、保護者の助言・指導が必要)だったが、 THISBFFでの上映はR21(21歳以上鑑賞可)。そのような映画を上映するのはいかがなものか? という批判が出たのだ。対してTHISBFF側は『仁光の受難』を通して修行を妨げる煩悩とは何か議論する場としたいとする考えと、R21をつけることで鑑賞への注意喚起をすることを説明した。

仏牙寺龍華院博物館
チャイナタウンにある仏牙寺龍華院博物館。

 その話題性が観客の興味を引きつけたのか、『仁光の受難』のチケットは完売となった。

 「THISBFFからは『仏教的に意味があると思うから上映するので安心してほしい』という連絡をいただきました。もしかしたらメディアから僕を守ってくれたのかもしれませんが、現地でも混乱はありませんでした」(庭月野監督)

ナショナル・ギャラリー・シンガポールから
元最高裁判所と元市庁舎という歴史的建造物を生かしたナショナル・ギャラリー・シンガポールからの眺めをパノラマで!

 ただ観客の反応は賛否両論。「お寺の許可を得て撮影したのか?」「なぜ同性同士の性愛シーンを入れたのか?」「バッドエンドで終わっているが、もしハッピーエンドだったらどうなるのか教えてほしい」など、今まで回った国内外の上映では出なかった質問が多数あったという。

芸術・学問の女神サラスワティ
ヒンドゥー教の芸術・学問の女神サラスヴァティにもお参り。

 「修行僧の所作は、実際に僧侶にレクチャーも受けましたし、映画完成時には僧侶にもコメントをいただいたことを説明すると、本当かな? みたいな納得されていない表情をしていました。同性愛のところは、THISBFFのスタッフからも質問を受けて、日本では“衆道”という言葉もあるくらい史実であることを話しましたが、そもそもシンガポールでは公の場で性について語ることも抵抗があるのかなと思いました」(庭月野監督)

 もとより庭月野監督自身、熱心な仏教徒というわけではなく、神話や絵画などの宗教美術に興味があり、本作の着想に至ったという。

 「実はTHISBFFから連絡を受けるまで仏教映画であるとあまり意識していませんでした(苦笑)。昨年は時代劇ということで第9回京都ヒストリカ国際映画祭にも呼んでいただいた。海外セールスを担当している香港の映画会社はアート系映画としてPRしているようですが、さまざまな映画祭に意外なところで関心を示していただいて、作った本人としても発見があります」(庭月野監督)

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生活の中心に宗教

Shaw House
上映会場の Shaw Theatres Lido が入っている Shaw House。在住日本人御用達の百貨店・伊勢丹スコッツも入っている。

 映画祭の上映会場はショッピングスポットのオーチャード・ロード沿いにある Shaw House 内の映画館 Shaw Theatres Lido の1か所。週末は1日、3~4本を上映するが、平日は夜に1本のみ。

仏牙寺龍華院博物館
仏陀のものとされる歯が納められている仏牙寺龍華院博物館にて。

 『仁光の受難』は現地時間9月27日夜の1回上映で時間がたっぷりあったため、庭月野監督はTHISBFFが用意してくれたスタッフのガイドで市内観光へ。

スリ・ヴィラマカリアマン寺院
リトル・インディアにあるヒンドゥー教のスリ・ヴィラマカリアマン寺院にて。

 チャイナタウンにある“仏陀の歯”と言われるものが納められている仏牙寺龍華院から、リトル・インディアのヒンドゥー教の寺院、マレー系のイスラム教徒が多く住むカンポン・グラム地区のモスクなどの宗教施設を中心に見学したという。

カンポン・グラム地区
シンガポール最大のサルタン・モスクがあるカンポン・グラム地区。

 「ヒンドゥー教の寺院とモスクが、お隣同士のような感覚でひしめき合っていて驚きました。ガイドしてくれたスタッフいわく、移民大国で暮らす彼らの悩みは、自分たちのアイデンティティーが分からなくなることだそうです。そんな彼らの軸となるのが宗教なのでしょうね。これはずっと島国で暮らしている日本人にはなかなか理解できない感覚なのかもしれません」(庭月野監督)

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映画祭は海外セールスにお任せ

マリーナ・ベイ・サンズ
マリーナ・ベイ・サンズをバッグに成功者風の写真を撮る庭月野監督。

 『仁光の受難』は製作に4年かけた自主映画だが、完成度の高さから国内の配給をポニーキャニオン、海外セールスを香港のアジアン・シャドーが担当している。釜山国際映画祭への参加が決まったときに アジアン・シャドーからオファーがあり、庭月野監督自身が契約を結んできた。以降、海外映画祭出品の窓口は アジアン・シャドーが担当している。

マーライオン
おなじみマーライオン。

 「海外映画祭への参加は渡航費と宿泊費を映画祭側が負担してくれるところのみ、アジアン・シャドーから僕のところに連絡が入ります。今回も3泊4日の滞在はTHISBFFの招待でした。ただ中には、自腹でも参加したかったという映画祭があります。ニューヨーク・アジア映画祭です。作品自体は米国で結構上映されているのですが、僕自身はニューヨークはおろかアメリカ大陸にも行ったことがないので、是非参加したかったですねぇ」(庭月野監督)

チャイナタウン
ランタンで彩られたチャイナタウン。

 海外セールスの担当者といかに意思疎通を図り、信頼関係を築いていくかは多くの映画監督の悩みどころであろう。ただし海外セールスを取り付けたことで出品された海外の映画祭・上映会は30か所以上。イギリスとフランス、北米でDVD&Blu-rayも販売された。

カヤ・トースト
朝食の定番カヤジャムを挟んだカヤ・トースト。

 「今は忘れられないうちに早く次回作に取り組まないと(苦笑)」(庭月野監督)

 『仁光の受難』の上映の旅を通して得た経験が次回作にどのように生かされるのか、期待したい。

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