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『火花』菅田将暉&桐谷健太 単独インタビュー

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『火花』菅田将暉&桐谷健太 単独インタビュー

代わりがいないということが大切

取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美

お笑いコンビ・ピースの又吉直樹による第153回芥川賞受賞作を、芸人でもあり映画監督でもある板尾創路のメガホンによって映画化した『火花』。売れない芸人の徳永が、営業先で知り合った先輩芸人・神谷への弟子入りを志願したことから、二人の人生が変化していく様子を丹念に描く。「笑い」というものを深く思考する徳永を演じた菅田将暉と、常識にとらわれない発想を持つ神谷を演じた桐谷健太が、作品や自身の俳優としてのスタンスを語った。

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お笑いのプロに囲まれて漫才師を熱演

菅田将暉&桐谷健太

Q:原作者、監督、キャストも芸人の方が大半の中、漫才師を演じるというのは、かなりの挑戦だったのでは?

菅田将暉(以下、菅田):あってはならないことではないかと、毎日どこかで思っていました。僕にとって芸人さんというのは、そのくらいリスペクトしている職業でしたから。

桐谷健太(以下、桐谷):僕は小さい頃からみんなが笑った時のエネルギーが好きだったので、プレッシャーよりも嬉しさの方が大きかった。歌を歌う時、「役者なのにプロの方と音楽番組に出られて緊張しませんか?」とよく聞かれるんですけど、歌うことも好きだから引け目はない。「俺も好きやし。そこは仲間でしょ」という感じなんです。

Q:漫才師を演じる上で、何か参考にされたものはあったのでしょうか?

菅田:撮影前に板尾監督から、漫才師の方々のDVDをいただいて観ましたけど、マイクスタンドの前の立ち方がすごく難しいなと感じたんです。馴染むことが難しくて、初めは手を前に組んでやっていたんですけど、徳永が髪を染めて少し売れてからの立ち方は、組まないでダランとするようにしたんです。そうすると、すごく落ち着いて馴染む感覚がありました。徳永のボケとしての絶妙な暗さ加減というか。それは徳永というよりは、僕自身のスタンスなのかもしれませんけどね。

桐谷:漫才の参考にしたものはなかったんですけど、神谷という役についてはかなり悩みました。原作を読んだ時に神谷がひとりの人間に感じなかった。そんな人物をひとつの体でどう表現するのか悩んでいた時に僕の相方・大林役の三浦(誠己)くんから、「桐谷健太の思う面白いことをやれば神谷になる」と言われて「それでええんや!」となったんです。もちろん神谷として生きるんだけど、今まで大阪などで培ってきたものを出したらええんやと思えて、一本につながった感じがしました。

Q:作中で描かれた10年の月日の中で、芸がどんどん磨かれていく様子もリアルでしたね。

菅田:ほぼ順番通りの撮影だったので、そこはリアルでした。初めの方は、相方・山下役の(川谷)修士さんが、わざと下手にやってくださったんです。「2丁拳銃」として20年以上やってらっしゃるから、初めは板尾さんから「ツッコミがベテランすぎる」って言われて(笑)。そこをあえて緊張したり、わざと間違えたりしてくださって。僕の場合は素直に毎回全力でやっていったら、いつの間にか慣れていったという感じになった気がします。

桐谷:漫才師の役は人前でやっているという空気が出ないとそれ風にならないから、実際に人前でちゃんとやってから役になるということは大切にしましたね。撮影前に、スタッフさんやエキストラさんの前で漫才をやらせてもらったりとか。そういう流れの中で、漫才師らしさをつかんでいきました。

菅田が先輩・桐谷にガチでツッコめる理由とは?

菅田将暉&桐谷健太

Q:ドラマやCMなどで共演されているお二人ですが、今回の作品で向き合って、新たな発見などはありましたか?

桐谷:役者に限らず「その人の代わりがいない」ということが大切だと思っているんです。本当はみんなそうかもしれないのに、誰かに影響されてしまったり、真似てしまったり、個性をなくしてしまう人もいる中、将暉は自分というものがはっきりしている。僕たちが初めて会ったのは将暉がハタチくらいの頃だったけど、ずっと変わらずにやってるんちゃうかなと思いましたね。今回も俺がボケたらちゃんとツッコんでくれて。

菅田:それは普段からですからね(笑)。

桐谷:そうそう。それが今回の芝居の中でもできたことが単純に楽しかったですね。「俺らだけがおもろい」という空間って誰にでもあるじゃないですか。

菅田:その共有って狙ってできるものじゃないですからね。僕は発見じゃないんですけど、桐谷さんはマイクスタンドが似合うなと思いました。ビジュアル的に似合うというのもあるけど、声が合うんです。いい感じにしゃがれていて、よく通る声というか。

桐谷:うれしいなあ。初めて言われました。

Q:ちなみに、菅田さんはなぜ、先輩俳優の桐谷さんにツッコめるんですか?

桐谷:そや、13も年上の先輩に(笑)。

菅田:ツッコんでいるというかツッコまされているところがあるんですよ。関西のコミュニケーションとして「なんでツッコまなかったん?」というところがあって。それにツッコむ時は敬語もタメ口もないというところがあるんです。もちろん敬語の時のほうが多いし、微妙なところなんですけど。

桐谷:そうそう。例えば俺がボケて相手に「言わんでええねん」ってツッコんでほしいところを、「なんでそう言うんですか?」とか言われるとリズムが狂うからね(笑)。

菅田:マジになってしまいますからね。

桐谷:そこで俺が「敬語使えや」って言いたいなら、俺がそもそもボケたらいかん(笑)。

菅田:確かに(笑)。ただ先輩の中にはそうおっしゃる方がいるかもしれないんですけど、桐谷さんはツッコませてくれるんです。

新人の頃からスタンスは変わらない

菅田将暉&桐谷健太

Q:お二人は劇中の芸人たちのように、役者への夢と現実との折り合いをどうつけていくのか考えた時期がありましたか?

桐谷:将暉は何かに応募してデビューしたんだっけ?

菅田:そうです。ただ、それがイコール役者ではなくて自分が何になるかよくわからなかったんです。「俳優ってなんなん?」とか「テレビに出るってどういうことなの?」とか田舎モンの僕にはわからなかった。気づいたら「仮面ライダー」をやっていて気づいたら毎日メイクをして芝居をしていて。

桐谷:どんな気持ちなん? 俺ちょっとインタビューさせてもらうわ。俺は東京に出てきてうまくいかん時期もあって少しずつやってきたから、冷静だった時間も長かった。でも将暉はその何も知らんかった時からまだ10年くらいしか経ってないけど、一気にスゴイじゃない。

菅田:パニックですよ、いろいろと。なんだかわからない感じがまだあります。

桐谷:それまでは普通にコンビニに乳首出して行ってたのになー。

菅田:乳首出してへんわ! そこだけ開いてるシャツ? それとも全部? どっち? そこだけ教えて(笑)。

桐谷:そこだけ開いてるやつ(笑)。売れる前はそれ着てコンビニ行ってたのに、今は着られなくなって出したいなって気持ちになる時もあるかもしれない(笑)……それにしても、出会った時は将暉をまだ知らん人もおったけど、短い間でガーっといったよな。

菅田:他の人が見たらジェットコースターに見えるのかもしれないけど、自分なりの階段をのぼっているつもりです。(今も昔も)やっていることは一緒なんです。起きて、仕事場に行って、帰ってくる。「最近、忙しいんでしょ?」と言われますけど、仕事量は昔から変わっていない。そこに対して「急に」ということはないんです。

桐谷:スタンスは変わっていないんやね。

菅田:はい。そこを一回落ち着いて整理しないといかんのかなって、やっと思えるようになってきましたけど。ただ、この先は自分がどうなっていくのかなんてわからないですね。もしかしたら明日、本当に乳首出してコンビニに行くかもしれないし(笑)。

桐谷:そしたら俺は、将暉がおかしくなったんやな、こまめに電話したらなって思うわ(笑)。


まるでベテラン芸人のように見事なボケとツッコミを見せてくれた菅田と桐谷。二人の話すテンポはほぼ同じだった。一方がスローで切り出せばもう一方もそのテンポになり、少し速くなると同じように速くなる。それは、二人が持つ天性のリズム感によるものなのかもしれない。芝居も漫才も音楽も、リズムが大事なのだとしみじみ感じた。

映画『火花』は11月23日より全国公開

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